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アメリカ・ジョージア州のファーマーズマーケットで週末限定パン屋さんをやっている「サッちゃん」からサワー種の酸味について質問をいただきました。
サッちゃんのYouTubeはこちら
サワー種で仕込んだ生地を、A:オーバーナイト(冷蔵一次発酵)した場合と、B:コールドリタード(冷蔵二次発酵)した場合で、酸味に違いがあるのはなぜですか?
一晩(概ね12時間程度)生地を冷蔵庫に置くというのは同じでも、Bの方がパンが酸っぱくなります。さて何故なんでしょうね???
これはね~、突っ込んでいくとものすごく科学的かつ長い解説になるぞ。。。😅 私もなんとなくわかってはいますが、この際きちんと文献を参照しつつ改めて勉強してみましょう。
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前編は、研究者や企業の文献や解説資料から一部を抜粋引用させていただいたものに私見を追記するところまで。サッちゃんの質問への回答は後編でまとめます。引用文にはそれぞれの引用元を記号で表示し、引用文献の記号とリンクはページ最後につけました。
自家製発酵種 用語集
化学用語がたくさん出てくるので、最初に用語集を付けておきますね。
天然酵母、サワー種、ルヴァン種 etc.呼び方はいろいろありますが、根本的には同じものを指すと考えて問題ない。
ブドウ糖 :グルコース麦芽糖 :マルトース果糖 :フルクトースショ糖 :スクロース五炭糖 :ペントース五炭糖多糖類:ペントサンデンプン分解酵素:アミラーゼ
パン酵母 :Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)発酵種中の主な乳酸菌:Lactobucillus(ラクトバチルス属)サンフランシスコ乳酸菌:L. sanfranciscensis(ラクトバチルス・サンフランシセンシス )損傷デンプン:デンプン粒が傷ついたせいで加熱によらず酵素反応を受けるデンプンのこと
酵母について
- 発酵種に含まれる最も一般的な酵母はSaccharomyces cerevisiae (S. cerevisiae)です。製パンに使用するイーストの属種もS. cerevisiaeです。(O)
>果物や穀物から育てた発酵種の中に育つ酵母も、長い期間のスクリーニングを得て最終的に残るものはほとんどが市販のイーストと同じ属の酵母ってこと。市販のイーストは、選別された酵母のみを単純培養したもの。発酵種は、数種の乳酸菌を主とする細菌群と、小麦粉と水だけの環境で活発に増殖する数種の酵母(SaccharomycesやKazachstaniaなど)が共存共生している。
- 酵母は、pH 5 ~ 7 の範囲で良好に機能します。(B1)
>サワー種は乳酸菌の作る「酸」のせいでpH3~4と酵母にとってもまあまあ”酸っぱい”環境ですが、そのおかげで他の雑菌の増殖を抑えて酵母と乳酸菌が優勢になります。サワードウ(パン生地)を仕込むとpHが下がって酵母が活発に発酵を始めます。
- 酵母は 40–50℃で最も活発になり、60℃で不活化されます。(B1)
>活発過ぎると過発酵になりやすいので、通常は30~40℃が最適な発酵温度とされ、10℃以下になるとほとんど発酵しなくなります。
乳酸菌について
- 乳酸菌はその名の通り、乳酸を多量に生成する細菌の総称です。発酵種に含まれる三大メジャー乳酸菌は、Lactobucillus brevis、L. plantarum、L. sanfranciscensisです。(O)
>最後のやつがいわゆる「サンフランシスコ乳酸菌」です。サンフランシスコのサワードウベーカリーから同定されたのでそういう名前がついていますが、あなたの発酵種にもちゃんといるハズ!
乳酸発酵と水分の関係
- 水和を減らすと、乳酸菌の働きが弱まります。(L)
- 乳酸発酵は水分含量60~70%が適しています。(S)
>『固い発酵種の方が酸っぱくない』ということ。水分が少ないと微生物の働きが弱まるので副生成物ができにくい。
乳酸発酵と温度の関係
- サワードウ乳酸菌の3つのグループはすべて、少し暖かく湿った生地を好み、多くは約32℃またはそれ以上で最も速く成長します。(W)
- 乳酸菌の発育適温度はおおむね20~30℃です。(S)
- 18~30℃が乳酸菌による風味生成に最適です。(W)
>乳酸菌も酵母と同じく暖かい方が活性が上がります。でも、乳酸菌は酵母の活性を上げ、生地を美味しくし、グルテンを緩めてパンの口溶けを良くすると同時に、パンを酸っぱくします。。。サワードウを室温程度で発酵させるのは長所と短所のバランスを取るためなんでしょうね。
発酵温度と乳酸/酢酸比の関係
- 発酵温度が高い(29~32℃)と培養液中の乳酸の生成が促進され、温度が低いと酢酸の生成が促進されます。(B2)
- 最も多く生成される乳酸は、ほとんど香りがなく、比較的マイルドな酸味を呈します。一方、酢酸はツンとした刺激的な香りと酸味を呈しますが、旨味を増強するなど、パンの味や香りを大きく左右します。(O)
- 温度が高いとサワー種中の乳酸の発生が多く、まろやかな味になり、温度が低いと酢酸の発生が多く酸味が前面に出ます。(T)
>乳酸と酢酸の関係については多くの文献に同様のことが書かれていますが、意外に知られていないのではないでしょうか?「発酵種には乳酸菌と酢酸菌がいる」と誤解されていることがありますが、鳥越製粉の資料のとおり『乳酸菌が乳酸と酢酸を作る』んです。また、酸性度は乳酸の方が強いのに、酸味は乳酸の方がずっとまろやか。”乳酸菌が重要”と言いながら、実は風味に大きく影響するのは乳酸じゃなくて「酢酸」の方です。酢飯が美味しいのと同じように、パンもお酢で美味しくなる。
>上で「室温以下で発酵させてバランスを取る」と書いたのに、ここでは「低い温度では酸味が強くなる」となっていて矛盾するようですが、、、実際の発酵工程においては、生成物の割合よりも乳酸菌の活性を抑える方が酸味をコントロールする効果は高いということだと思います。
酵母と乳酸菌の大きさの違い
こんなに大きさが違います。生物としての大きさの違いは、糖を消費する力や発酵力、環境に対する耐性などに影響してきます。
酵母と乳酸菌が起こす酵素反応
化学が苦手な人には頭が痛くなりそうなところだと思いますが、、、これこそがサワー種及びサワードウに酵母と乳酸菌が共存する理由と、パンが酸っぱくなる仕組みです。
もちろん、パン生地の中で起こる化学反応はこんな単純なものではなく、アミノ酸、脂質などたくさんの物質が相互に作用した複雑なものですが、パンが酸っぱくなる主たる理由が概ね理解できます。
酵素 | 由来 | 分解反応 | |
① | 各種アミラーゼ | 主に小麦粉 | 損傷デンプン ↓ ブドウ糖、麦芽糖、オリゴ糖、デキストリン |
② | マルターゼ | 酵母 | 麦芽糖 ↓ ブドウ糖+ブドウ糖 |
③ | インベルターゼ | 酵母 | ショ糖(砂糖) ↓ ブドウ糖+果糖 |
- パン生地中では果糖が乳酸菌に一番利用されやすい。(L)
- サワードウ乳酸菌のほとんどはブドウ糖を優先的に消化するが、サンフランシスコ乳酸菌はブドウ糖よりも麦芽糖を好む。(L)
- サンフランシスコ乳酸菌は麦芽糖をグルコース-1-リン酸とブドウ糖に分離させる。グルコース-1-リン酸の部分はグルコース-6-リン酸に変換されてヘテロ発酵経路に入り、ブドウ糖は細胞外に排泄される。(L)
- 穀物酵素はペントサンに作用してペントースを遊離する。ペントースはヘテロ乳酸菌で優位に使われて酢酸の産生を増加させる。(O)
表は(S)サイレージ発酵の理論より
>乳酸菌の発酵にはホモとヘテロがあるそうですが、発酵種の乳酸菌がどっちかなんてわからないので両方いるということにしておきましょう(笑)。表1で乳酸菌は「フルクトース(果糖)」と「ペントース(五炭糖)」から酢酸を生成することがわかります。これ、私には大発見でした!!
>フルクトース(果糖)は砂糖に含まれる糖なので、砂糖の入らないスターターやパンには存在しません。一方、砂糖を大量に使うパネトーネでは酵母が砂糖を分解して果糖を作るので(酵素反応③)、そこから「酢酸」がたくさんできるってこと。砂糖を30~40%も配合するパネトーネをそれほど甘いと感じないのは、生地がものすごく酸っぱくなっているからなんですね。
>ペントサンと言ったらライ麦粉。以前にここでライ麦粉に含まれる「ペントサン」のことを書きました。ペントサンをライ麦粉自体が分解してできるのが「ペントース」。乳酸菌はこの糖を発酵に利用して酢酸を作る。
<抜粋引用させていただいた資料および文献>
パンが酸っぱくなる仕組み、わかってきました?😁
後編へ
関連記事のまとめ読みは【カテゴリー:自家製発酵種(天然酵母)のパン作り】から。
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