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【自家製発酵種】酵母と乳酸菌の発酵を徹底解説!(後編)

2022年12月5日月曜日

カンパーニュ/サワードウブレッド パネトーネ/パネットーネ 自家製発酵種(天然酵母)のパン作り

随時、追記·修正·更新しております。転載や盗用はご遠慮ください。部分引用の際は必ずページリンクを記載いただきますようお願いいたしますm(_ _)m

🍞今日のパン

アメリカ・ジョージア州のファーマーズマーケットで週末限定パン屋さんをやっている「サッちゃん」からサワー種の酸味について質問をいただきました。

サッちゃんのYouTubeはこちら


サワー種で仕込んだ生地を、A:オーバーナイト(冷蔵一次発酵)した場合と、B:コールドリタード(冷蔵二次発酵)した場合で、酸味に違いがあるのはなぜですか?

前編でいろいろな資料から勉強させてもらいましたので、整理しながら解説してみます。



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自家製発酵種(サワー種)中の酵母と乳酸菌


発酵種の元になる酵母は果物や穀物から育てますが、何回かのスクリーニングを経てパンの発酵に適する酵母として残るのは主に「Saccharomyces cerevisiae(サッカロマイセス・セレビシエ)」。工業的に純粋培養で作られるイーストと同じ種族の酵母菌です。(Kazachstania属が主という説もあります)

自家製発酵種とイーストの主たる違いは、乳酸菌が共存しているか否か。

乳酸菌も、酵母と同じく果物・穀物・空気中などから混ざったものの中から何回かのスクリーニングを得て、3大メジャーを含む乳酸菌が酵母と共存する菌として残ります。その中には「サンフランシスコ乳酸菌」も含まれる。


発酵種及びパン生地の中で起こる酵素反応


小麦粉と水だけで継ぐ発酵種には、酵母と乳酸菌が必要とする「糖」が含まれていませんが、小麦粉は水分を得ると自らが持つアミラーゼによってデンプンを自己分解し、微生物が利用できる糖を作り出します(酵素反応①)。

酵母はこのブドウ糖を栄養にします。また同時に酵母自体もさらに麦芽糖を分解して自らブドウ糖を作り出します(酵素反応②)。

サンフランシスコ乳酸菌はブドウ糖よりも麦芽糖を好む特殊な性質で、酵母の助けを得ずに麦芽糖を直接利用できます。さらに、この発酵の過程でブドウ糖を排出して酵母の発酵を助けます。サンフランシスコ乳酸菌と酵母はとても相性が良いのです。

ミキシング直後は生地中に多くの酸素が含まれるので、酵母はブドウ糖を栄養源にしてエネルギーを大量に生産して増殖します。乳酸菌より大きい酵母はどんどん糖を消化するはずです。


オーバーナイト発酵(冷蔵一次発酵)で酸味が強くならない理由


発酵の初期段階では酵母が優先的に活動し、乳酸菌による発酵や酸産生はまだ少ないことが想像できます。

酵母と乳酸菌の発酵で生地中にエタノールや炭酸ガスがたまって酸素が無くなると酵母の活動が緩やかになり、通性嫌気性の乳酸菌による乳酸発酵が進んできます。

発酵の早い段階(一次発酵)では酵母の方が優先的にブドウ糖を消化して増殖していると考えられ、乳酸菌による酸産生がまだ少ない。


これが、オーバーナイトの一次発酵で生地の酸味が強くならない理由でしょう。


酸味はコールドリタードで強くなる


発酵の途中でパンチを入れて生地に酸素を入れると酵母のエネルギー生産が活発になりますが、成型後のコールドリタードやスターターを冷蔵保存している間は無酸素状態になり活動が低下します。

さらに冷蔵で酵素反応が減速するとブドウ糖が減って酵母は活動を停止します。

一方、乳酸菌は低温嫌気性下でも麦芽糖とペントースを消費してゆるやかに発酵を続けることができます。

二次発酵をコールドリタードにすると、生地がほとんど膨らまず、酸味が増し、グルテンが緩んで内相に大きな穴が開いてよく窯伸びするパンになるのは、冷蔵二次発酵中は酵母より乳酸菌の方が優位になっていることを示します。


ライサワーが超酸っぱいワケがわかった


これ、以前から不思議に思っていました。

ライ麦粉が酸っぱいわけでは無いのに、どうしてカンパーニュやサワードウブレッドにライ麦粉を入れると酸っぱくなると言われるのか、、、

前編の【乳酸菌による炭水化物の発酵】の表のところで「乳酸菌はフルクトース(果糖)とペントース(五炭糖)から酢酸を生成する」と書きました。ライ麦粉は自己消化でペントサンからペントースを生産し、それが乳酸菌に使われると「酢酸」ができる。

これが、小麦粉のサワー種よりもライサワーが格段に酸っぱくなる理由ですね!

ペントサンはライ麦粉以外に小麦の外皮付近にも含まれています。精白小麦粉より全粒粉の方がペントサンを多く含み、さらに灰分の多い粉には酵素も多いです。よって、ライ麦粉>全粒粉>粗い小麦粉>精白小麦粉の順で酢酸産生が減るということ。


酸味を自在にコントロールする 

 

乳酸菌が、強い酸味の元になる酢酸を作り出す要因がわかりました。ただし、乳酸菌が酢酸を生成する=旨味や風味も強くなるということでもある。

酵母も乳酸菌も25~35℃の湿度の高い環境が発育に適しています。そして、30℃以上の環境で乳酸>酢酸となり酸味が穏やかになります。しかし、温度を上げると発酵が早くなり、旨味や風味に関与する発酵副生成物の生産量も少なくなります。

ゆえに「乳酸菌の風味生成には18~30℃が適正」と書かれているのでしょうね。

※単に酸っぱくしたくなければイーストで作ればいいんです😄

 

発酵種やサワードウの酸味を管理するために「pH計」を使う人がいますが、pH(酸性度)と酸味は必ずしも対応していません。

(前編)で引用したように、乳酸と酢酸は人が感じる酸っぱさが違います
「pHが低い」ことと「酸っぱい」ことは、イコールではありません。


  • 水分
  • 発酵温度(時間)
  • 粉の種類
  • 糖類

スターターとパン生地の各々でこれらの条件を調整すると、酸味や風味をコントロールすることが可能です。

例えば、パネトーネ。

発酵種は水分の少ない固い状態で保管し、仕込み当日に1〜3回程度小麦粉でリフレッシュして酸味を減らし”生イースト”のようにイースト活性を強くします。

パン生地の発酵温度は27〜30℃。

砂糖(果糖)が多く発酵時間の長いパネトーネ生地は酸っぱくなりやすいです。酢酸産生を出来るだけ少なくする工夫が詰まった製法になってます。

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良い機会だと思いたくさん勉強して長々と書かせていただきました。パンの発酵は本当に複雑でここに書いたようなことはごく一部だし、元製パン研究開発従事者とはいえインターネット上の資料をいくつか参照した程度なので正しく理解出来ていないところもあるかもしれません。ですが、辻褄は合っているので大きな誤解は無いかと自負します。参考になれば幸いです。

関連記事のまとめ読みは【カテゴリー:自家製発酵種(天然酵母)のパン作り】から。

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