🍞今日のパン
シリーズまとめ読みはこちらから【カンパーニュ/サワードウブレッド】
この「コールドプルーフ/コールドリタード」も、なまこ型のカンパーニュ(サワードウブレッド)を外メリメリ・中ボコボコに焼き上げるコツのひとつとして、世界のベーカーさんが共通して取り入れています。
カンパーニュ(サワードウブレッド)の最終発酵は「冷蔵」が主流
過去の記事で引用させていただいたベーカーさん方の動画でも、みなさん「最終発酵は冷蔵庫で一晩、復温無しでオーブンへ」という焼き方。
「コールドプルーフ」もしくは「コールドリタード」と呼ばれています。
プルーフ(proof)は「生地発酵」、リタード(retard)は「寝かし」
この場合は同じことを指しています(本来リタードが正解だと思いますが)。
最終成形した生地をバヌトンなどの型に入れ、乾燥しないように冷蔵庫に入れておきます。
※一次発酵を冷蔵庫で行う場合は「オーバーナイト法」とか「冷蔵長時間発酵」と呼ばれます。
コールドプルーフ/コールドリタードの利点
成形後の生地を冷蔵庫に入れると、全体が完全に冷えるまでの間低温でゆっくり二次発酵が進み、その後は概ね”休眠”状態になるとされます(冷蔵庫の温度にもよる)。
焼成時間の調整が可能
適性な発酵状態になった後は、休眠状態になった生地をいつでも焼くことができます。
旨味・酸味が増える(熟成する)
微生物が完全に休眠状態になるまでの間は発酵が進みます。酵母と乳酸菌は低温でゆっくり活動して二酸化炭素・アルコール・酸・旨味成分を作り出します。低温下では乳酸菌の「酢酸」産生が増えるため、冷蔵発酵の方が酸味の強いパンになります。
生地の伸展性が増す
長時間の水和と発酵により、窯伸びしやすい生地になります。
保存性が良くなる
長時間の水和と発酵で水分活性と酸度が上がり、焼成後のパンが乾燥して固くなるのを防ぎ、雑菌増殖も抑えます。
クープが入れやすい 成形しやすい
生地表面が乾き全体が締まるため、高加水の生地も扱いやすくなります。
クープが開きやすい ボリュームが出やすい
生地表面が乾き全体が締まっているためオーブンに入れても表皮が伸びにくい反面、内側は生地温が低く生地温の上昇に時間がかかるため、結果としてクープが大きく割れて膨らんだ焼き上がりになりやすい。
コールドプルーフ/コールドリタードの欠点
- 生地表面が乾燥する。
- 酸味が強くなる。
- 内相が粗くなる。
- 表面に梨肌(火膨れ・ブリスター)が出る。
パンの表面にブツブツ(ブリスター/blisters)ができるのは「冷蔵障害」と言って、冷凍生地や冷蔵発酵のパンによく見られるものです。
従来は見た目が良く無いとされてましたが、サワードウブレッドの場合は食感のために敢えてこれを作る人もいます。
サワードウブレッドの「内相」「酸味」は欠点ではなく、むしろコールドプルーフ/コールドリタードが好まれる要因となってますね。
利点・欠点さまざまですが、冷蔵によって「高加水のぷるぷる生地が扱いやすくなる」ことが、ホームベイカーにとっての一番大きなメリットかもしれません。
コールドプルーフ/コールドリタードの方が上手く焼ける理由を科学してみる
低温でガスが生地に溶ける
フランスパンやカンパーニュなどのリーンなパンは、「乾ホイロ」と言って25~28℃・70~75%の低温で乾いた場所で最終発酵を取るのが一般的な製法です。
これは、水温と溶存CO²量を表したグラフです。
グラフの出展元はこちら⇒🔗
普通のパンを発酵させる38℃の時、グラフの値はちょうど「1」
乾ホイロで、「1.5」程度
冷蔵庫環境では、「2.5~3」
生地を冷蔵庫に置くと、発酵で生じた二酸化炭素ガスが水に溶ける(生地に溶存する)量が2倍に増える。
コールドプルーフ/コールドリタードで生地がほとんど膨らんでこないように見えるのは、「気泡(ガス)になる炭酸ガスやアルコールの割合が少なくなるため」とも考えられます。
グルテンが固くなって圧力が上がる
グルテンの状態も冷蔵温度では変わってきます。
温度が低いほど、グルテンの吸水力が下がり生地が伸びにくくなる。
生地が冷たく固く伸びにくくなると、発酵で膨らもうとしている生地内部に圧力がかかります。
圧力によってグルテンが強くなり、ガスの溶存量はますます増えます。
コールドプルーフ/コールドリタードした生地には、ガスになる前の状態で二酸化炭素がたくさん含まれている。
生地温度が低い状態で高温のオーブンに入れると、、、
生地が温まって伸びやすくなると同時に、溶けていた二酸化炭素が気体になって生地のすき間を大きく膨らませ、さらに水も蒸発し始めてさらに穴が大きくなる。
※これは私の考察であって検証結果ではありません。
ハード系のパンを”外メリメリ・中ボコボコ”に焼き上げるには、オーブンに入れてから10分程度の間に、ガスが発生する→グルテンが固くなる→デンプンが膨らむ→水蒸気が発生する→表面が焼き固まる、これらがタイミングよく連動する必要があります。
家庭用のオーブンではこれを実現するのがなかなか難しいのですが、コールドプルーフ/コールドリタードした生地の方が常温発酵の生地よりもうまくいきやすい(アメリカのオーブンの場合は特に!)、ということなんでしょうね。
次回未定ですが、まだまだ続きます。
4 件のコメント:
色々なパン理論をわかりやすく解析して下さりありがとうございます。
低温でガスが生地に溶ける説明で
・生地を冷蔵庫に置くと、発酵で生じた二酸化炭素ガスが水に溶ける(生地に溶存する)量が2倍に増える。
・コールドプルーフ/コールドリタードで生地がほとんど膨らんでこないように見えるのは、「気泡(ガス)になる炭酸ガスやアルコールの割合が少なくなるため」とも考えられます。
とありますが、矛盾しているように思うのですがどういう意味でしょうか。冷蔵するとガスが増える?少ない?
yummy様、ありがとうございます!
わかりにくくてごめんなさい(_ _;)
「二酸化炭素ガスが水に溶ける(生地に溶存する)量が2倍に増える。」というのは、ガスが増えるのではなく、”液体になって生地に溶ける量が増える”という意味です。常温では気泡になっているガスが、冷蔵で液体になって生地に溶けてしまえば体積が小さくなります。一見膨らんでいないように見えても、実はガスが生地にたくさん溶けてしまい気泡になって生地を膨らませていないだけかもしれない、ということが言いたかったのです。
丁寧にありがとうございます。
溶けた二酸化炭素の説明でしたね。読み返したら理解できました。
そして、今までパン生地の膨らみがイマイチだった理由がわかりました。
>yummy様
それは良かったです! これからもよろしくお願いします。
コメントを投稿