ミキシングの最初に小麦粉と水だけを混ぜて一定時間(20~30分が一般的)置く、それがオートリーズです。たったこれだけのことなのに、パンが劇的に変わります!
私が師匠と崇めるフィリップ・ビゴ氏の、そのまた師匠であるレイモン・カルヴェル先生が発見した製法と言われます。
オートリーズは、一般的にはフランスパンのストレート法の仕込みで使われます。
そのオートリーズを私は食パンにもバターロールにも使います。
私は、「中種法」の発酵臭や「長時間発酵」の強い旨味などがあまり好きではありません。特にシンプルなパンはできるだけ「ストレート法」で風味も食感も軽く仕上げたい。
そんな私にピッタリなのがオートリーズ!
オートリーズを上手に利用すると、単純なストレート法でも歯切れ良く口溶け良く老化しにくいパンを作れます。
小麦粉と水を混ぜておいておくだけでアラ不思議!生地改良剤を使ったような弾力と進展性を併せ持つ生地になるんです。
ただし、欠点もあります。やり方によっては生地が緩んでコシが抜けてしまう。特に食パンはボリュームが出にくくなることがあります。
オートリーズの間に小麦粉にどんな変化が起こっているのか、オートリーズを化学で理解できるとパンが一層面白くなりますよ!
オートリーズ(autolyse)とは?
自己消化、自己融解、などと訳されます。
水が加えられると小麦粉中の酵素(酵母ではありません!)が活性化します。このわずかな酵素の化学反応が生地の性質を変化させます。
これがオートリーズです。
酵素作用は塩・砂糖などによって阻害されてしまうし、イーストを入れると発酵が始まってしまう。
そのため、小麦粉と水だけで水和と酵素作用を促す、これがオートリーズの目的です。
オートリーズは酵素作用
水和と酵素作用によって、小麦粉中のデンプンとタンパク質(グルテン)の性質が変わります。
デンプンの変化
デンプン粒のまわりに水分子がいきわたり、糊化しやすい状態になる。アミラーゼ(デンプン分解酵素)により損傷デンプンの一部が分解されて糖化する。
タンパク質の変化
十分な水和によってグルテンが形成される。プロテアーゼ(タンパク質分解酵素)によってグルテンが弱く柔らかくなる。
オートリーズでこう変わる
- ミキシングが短くなる。
- 生地の弾力が弱まる。
- 進展性が良くシート生地の加工性が向上する。
- 窯伸びが良くなりパンのボリュームが出る。
- 食感と風味が向上する。
- 老化が遅くなる。
など
その他の製法とオートリーズの違い
中種法・冷蔵発酵法・ポーリッシュ法などは、長時間発酵させることでイースト(酵母)の活動によって生地に変化が起こります。長時間発酵によって香りや旨味や酸が生成され、生地が熟成します。
オートリーズでは発酵は起こりません。
これが最大の違い。
ただし、ごくわずかなイーストで長時間発酵する生地(天然酵母パン)や、高加水でほとんどミキシングしない生地(チャバタやロデブ)などは、オートリーズと発酵の両方が機能していると言えると思います。(=ファーメントリーズ)
オートリーズに適した小麦粉と水の割合
これがオートリーズの難しいところ(面白いところ!)
小麦粉に対して使用する水の割合と放置する時間を適正にしないと、思い通りの生地にはなりません。
水和も酵素作用も、水を多く時間を長くした方が効果がでます。ですが、そうすると生地が緩んでダレます。
ピザやチャバタなどボリュームよりも水和を良しとするパンはそれでも良いですが、食パン・テーブルロールなどボリュームと柔らかさを両立させたいパンの場合は生地に弾力も残さねばなりません。
加水が多すぎたり時間が長すぎたりすると生地が緩んでコシが抜け、加水が十分でなかったり時間が短すぎると生地が締まってコシが付き過ぎる。
パンのできあがりイメージに合わせて、加水量・温度・時間、オートリーズする粉の割合などを試行錯誤する必要があります。
オートリーズが向いているパン
基本的にストレート法のパンの品質を改良する製法だと私は考えています。
※他の製法と合わせて使用することもあります。
私が普段使っているアメリカのパン用粉は日本の強力粉に比べ灰分値が高く、さらにモルトも入っています(=酵素が多い)。そのため、よりオートリーズの効果が出やすいです。
オートリーズ&ストレート法で作った食パン生地はプリプリの弾力と薄く柔らかく伸びる進展性を併せ持ち、優しくスムーズに窯伸びします。
しっかり水和しているためよく焼いても焼減率が低く、クラムがしっとりソフトで老化も遅い。
スライスしてトーストすると外側サクサク中はしっとりふわふわ。生地改良剤を使ったような食感になります。
全粒粉入りの生地も酵素活性と水和を高めるオートリーズが適しています。
伸展性が良くなるので、ピザ・シート生地・バターロールなどの成型がしやすくなります。
卵や牛乳を多く入れたパサつきやすい生地の食感改善にも効果があるでしょう。
ちなみに、菓子パンや総菜パンでも試してみましたが、これらには中種法の方が向いていると私は思いました。食感も風味も中種法のが合っている気がします。
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オートリーズという方法そのものは昔から知っていましたが、「フランスパンに使うもの」と何十年も思っていました。
ところが、アメリカに来る前にしていた開発のお仕事で”㊙製法”で作ったピザクラストにビックリ😲!すごく老化しにくくて冷蔵保存してもしっとり!!なんで???と考えて気づいたのが「製法がオートリーズに似てる」ということでした。
その時に初めてオートリーズで何が起こるのかをきちんと勉強しました。カルヴェル先生ってほんとにスゴイ。
ストレート法のパンが好きな私にとって、オートリーズは革命的!(笑)。でもスゴイと気づいてホームベーキングで試し始めたのはアメリカに来てからです。もう少しいろいろ試してみようと思っているので、このページの内容もどんどん変わっていくかも。。。
パン作りのあれこれについてはこちらのリンク集で→パンやお菓子の原材料・製法・道具のまとめページ
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